龍泉寺の豆知識1

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ページ番号1007540  更新日 2021年3月24日

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鈴木春山の母、鈴木園(その)は、浄土真宗の篤信者として全国的に有名です。

 鈴木春山(すずきしゅんさん)(1801~46)は、江戸時代後半の田原藩医・兵学者です。

 浦村(現在の田原市浦町)で生まれ、父の跡を継いで田原藩に仕える医師となりました。その人柄は豪快で、細かいことにこだわらなかったと伝えられています。

 江戸で渡辺崋山と知り合い、田原藩隠居であった三宅友信、蘭医(オランダ医学を習得した医者)の高野長英、小関三英らが行っていた蘭学研究に加わり、特に長英からオランダ語を本格的に師事したと考えられています。天保8年(1837年)に天保の飢饉による被害が田原藩内で大きなものなったときには、崋山の指示を受けて藩内の病人治療のために江戸から帰国し、4か月にわたって救済診療に力を尽くしました。

 天保10年(1839年)の蛮社の獄では、崋山や長英が捕らえられる中、春山自身は逮捕を免れたことから、崋山の救済活動に努めるとともに、長英とも連絡を取り合いました。その後、田原に蟄居となった崋山の治療に当たるとともに、話し相手になり元気づけるなどしています。

 崋山の死後、アヘン戦争で清国がイギリスに敗れたことに衝撃を受けた春山は、オランダ語で書かれた兵学書の翻訳に力を注ぐようになります。天保14年(1843年)には、老中の水野忠邦から翻訳の依頼を受け、江戸で翻訳の作業に没頭するようになります。この翌年、高野長英が牢から脱獄してお尋ね者となりますが、春山は危険を冒して長英をかくまい、江戸における隠れ家の世話などをしました。一方で、長英は春山の翻訳の仕事を手伝いました。春山が訳出した『兵学小識(へいがくしょうしき)』や『三兵活法(さんぺいかっぽう)』は、日本における初めての西洋兵学書を翻訳した書籍となりましたが、長英による翻訳や加筆、訂正が多く含まれているという研究者の指摘があります。

 しかし、こうして活躍しているさなかの弘化3年(1846年)5月、春山は腸チフスにかかって亡くなりました。龍泉寺にある墓には、遺髪が収められています。

 

 鈴木園(すずきその)(?~1853)は、浄土真宗の篤信者(とくしんじゃ(信仰の厚い人))で、同宗の信者からは妙好人(みょうこうにん(日々の発言や行動などに信仰が自然に現れている人物))として知られています。鈴木春山の母であるといわれています。園自身が書き残したものはありませんが、彼女の信仰の深さは、死後に浄土真宗の僧侶や信者によってまとめられた『妙好人伝』などの書物に残されています。

 それらの記録によると、園は若いころから法座があれば欠かさず出席し、無我に仏法を貴び、喜ぶような人物でした。その姿を見た信者たちが感動し、あちこちに招かれて話すよう求められましたが、園はいつも「私は何も知りませんが、阿弥陀如来の「この堕ちゆく者を必ず助ける」との言葉を信じて、よきにつけ、わろきにつけ、感謝して「南無阿弥陀仏」と唱えられることを喜ぶばかりです」と返したということです。

 あるとき、碧海郡野田村(現在の刈谷市野田町)に住む女性が、園に「私はこの世のことばかり面白くて、後生の話(死後どのようになるかといった仏法の話)は嫌いです」と話しました。すると園は、「あなたもそうか。実は私も後生のことは大嫌いで、この世のことが大好きです。しかし、そういう者を阿弥陀如来が好いてくださり、一番に救ってくださるので、それが何よりうれしくて毎日談合しているのです」と返事したそうです。女性は園のこの言葉に目が醒め、それからは仏法の話を楽しく聞いたといいます。

 園のこうした信仰の姿勢は、20世紀になって哲学者の鈴木大拙(すずきだいせつ)や柳宗悦(やなぎむねよし)などによってほかの妙好人とともに取り上げられています。このうち、鈴木は「自分の体験を基礎として立つて居る。外から制せられないから、文字や概念を自由に駆逐していく」といっています。また、柳は園の「はいはいと うなづくばかり 百合の花」という辞世の句を、信心のまごころをうたったものであり、「はい」という答えにより、仏に全てを任せている姿であるとしています。鈴木、柳ともに理屈によらない、自分の価値判断を超えて仏の教えに帰依するところに真の信仰があると考えているようです。

 龍泉寺にある墓によると、法名は「釈尼妙杲(しゃくにみょうこう)」。墓の右側側面には「惣同行志」と刻まれており、墓が信者らの寄付によって建てられたことがうかがえます。

春山
鈴木春山像 原田隆諦 昭和11年(1936年) 巴江神社蔵

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